にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

 植物利用

 「縄文人は何を食べてきたか」

 これも、じつに悩ましい問題です。なぜなら、農耕が始まっていない縄文時代において、狩猟採取以外には生存の糧がなく自然の資源(植物)を巧みに利用することで、非常に長期にわたって文化を維持してきたからです。縄文人は食料となる植物はあらゆるものを食料にするという多角的な姿勢をもっていました。それゆえ、イネやコムギなどの穀物以外はすべて利用したといっても過言ではないでしょう。ただ、もちろんアク抜きしなければ食べられない植物もたくさんあったと思われます。

 縄文時代の植物食のキーワードは、「デンプン」であると思われます。堅果類、球根類、根茎類といった野生の植物の利用に関しても、それから抽出されるデンプンが縄文時代の人びとの食生活に深くかかわっていました。また、穀類の栽培ということに関しても、供給されるデンプンが人々の生活を支え、安定させていました。縄文人は、食料となる植物はあらゆるものを食料にするという姿勢をもっていましたが、食料としての生産性や保存性、人々が生存するための必要性という観点からしぼっていくと、縄文時代の植物食のなかでデンプンが最も重要な役割をになっていたと考えられます。縄文時代の植物食について、堅果類、球根類、根茎類に分けて述べさせていただきます。

 堅果類(ドングリ類、トチ、クリ)

 ドングリ類には水溶性のタンニンがふくまれており、種のちがいや食べ方の違いによってアク抜きの方法にも違いがあることから、渡邊誠はドングリ類をクヌギ類・ナラ類・カシ類・シイ類の4種に大別し、これらのアク抜きの方法をあきらかにしています。(渡辺1995)。落葉広葉樹のクヌギ類とナラ類は、粒のまま食べる場合には加熱処理+水さらし、粉食の場合には製粉+水さらしをおこない、加熱処理をともなわないとします。照葉樹のカシ類は粒のままでも粉の場合でも、水さらしだけでアク抜きができるとします。照葉樹のシイ類はアク抜きはいらないとします。

 トチについては、トチには非水溶性のサポニンやアロインといった成分がふくまれ、灰すなわちアルカリで中和してアク抜きをする必要があり、最もアク抜きのむずかしい堅果類とされています。

 クリについては、1970年代以降に、クリの管理栽培に関する仮説は一般的に認知されていましたが、佐藤洋一郎らが青森県三内丸山遺跡富山県桜町遺跡から出土したクリのDNA分析を行い、管理栽培の裏付けをとる研究をすすめています(佐藤2000)。三内丸山遺跡の花粉分析や種実の研究から、人為的な栗林が存在したことが考えられています(辻誠2006)。

 球根類

 食料化が想定される球根類には、ヒガンバナキツネノカミソリカタクリ、ノビル、ウバユリ、オオウバユリ、オニユリコオニユリヤマユリなどがあります。これらのうち、ヒガンバナカタクリ、ウバユリなどはデンプンをとりだして食用化したと考えられています。ただ、有毒のアルカノイドをふくむヒガンバナ科ヒガンバナキツネノカミソリを食用にするには、その球根をたたきつぶしてアク抜きする必要がありました。

 根茎類

 食用化が想定されている根茎類には、キカラスウリ、クズ、ヤマノイモ、トコロ、ヒメドコロ、ワラビなどがあります。これらのうちクズやワラビについては、クズの根から水さらしによってアクと繊維をとりのぞき、ワラビの根からは繊維をとりのぞき、デンプンだけをとりだして食用化されたと考えられています。

 根茎類は植物遺体として検出されたことがないため、植物遺体による研究はおのずと限界があります。それをこえるためには民俗学・民具学の研究が必要で、根茎類の採取・加工に関する民俗モデルを構築する必要が生じてきます。この研究に関しては、山本直人が民俗考古学的研究をすすめています(山本2000)。根茎類はその性質によるものか、それらの植物遺体が縄文時代の遺跡から出土した例がなく、確証がえられていない状況にもかかわらず、それらの根茎類からデンプンがとりだされて食用化されたことや、ヤマノイモが食べられていたことが推測されています。このように推測されている根拠の一つは、根茎類を食用化したという近過去および現在における日常の生活体験や民俗学的な知識であります。

 なんだか学術的な話になってしまいましたが、要するに、縄文時代の植物から食用化のためにデンプンを取り出すには、ほとんどの植物はアク抜きが必要であり、縄文人の試行錯誤や大変な労力が必要だったということです。

(参考文献)山本直人縄文時代の植物食利用技術」『縄文時代の考古学5』同成社

                                   2007年