にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

 縄文人の食卓 

 縄文人は旬のものを食べながら、同時に保存食を作っていました。旬の食材をどのようにして食べたかというと、魚介類、山菜、キノコ、時には肉を入れた、今でいうちゃんこ鍋のようなものを食べていたと考えられていますが、スープ状のする以外にも、多くの調理法があったようです。 

 彼らは長い年月の間に、食材をどうすれば安全に美味しく食べることができるか、試行錯誤を重ねたと思われます。

 中でも縄文人の主な食材といわれるアクの強いドングリやトチの実は、深鉢の土器を使って木の灰を一緒に入れて煮たり、水場でさらしたりしてアクを抜き、すり潰して団子のようにして食べていたようです。

 もちろん、山に実るアケビヤマブドウ、クワなどの果実やアク抜きがいらないクリやクルミ、シイタケなどは彼らにとって手軽に食べることができる貴重な食材でした。これらは私たちが山歩きをする中で今でも簡単に見つけることができる食材のひとつでもあります。

 もう一つ、縄文人のカロリー事情について話したいと思います。現代人が必要とするカロリーは一日約1800から2200Kcalと言われています。労働環境や年齢、性別によっても変わりますが、このカロリーの8割ほどを縄文人たちは摂取していたことがわかっています。植物が主食なのに、現代人の8割ものカロリーとは驚きますが、実はこの植物が鍵を握っていたようです。

 彼らの主要植物である木の実類は非常にカロリーが高く、それを常食することで、合理的に必要なエネルギーを確保していたと考えられます。

 ちなみに山のように積み重なった貝塚の具、例えばアサリだと、1kgのうちに食べられる部分は400gほど、カロリーは120Kcal、たとえ一日中貝を食べ続けても、クルミには到底及ばないのです。そのため、ドングリやクルミ、クリが採れる時には集落総出で森に入り、採取にいそしんだと思われます。そして、大きな貯蔵穴や土器に貯めて、食料の乏しい時期に備えたものと思われます。

 今まで話したことは、創造の範囲内でのことです。なぜなら、食品の化石は残っていないからです。その中で、クッキー状・パン状の炭化物(加工食品炭化物)は、当時の食品が現代まで残った稀有な資料であります。

 そして、加工食品炭化物についての最大の関心事はその成分でありましたが、未だに主成分は明らかにされていません。長野県曽利遺跡例(中期後葉)は直良信夫によって「カタバミとサケの核らしいもの」(藤森・武藤1964)、ついで松谷による中部高地を中心とした、Ⅲ類及び形態不明の炭化種子塊11遺跡例の電子顕微鏡分析でエゴマの種子が検出されました。中野の脂肪酸分析は東北地方を中心に5遺跡で行われてきましたが、近年その算出方法に問題が指摘されています(難波ほか2001、山口2002)。ただし、堅果類を主とする「クッキー型」とともに、獣肉を主とした「ハンバーグ型」が提示されたことは、従来植物食に限定されていた加工食品炭化物研究に、再検討を促すものとして注目しておく必要があり、その存在の有無については重要な課題として残されています。

(参考文献)

譽田亜紀子「縄文人のおいしい食卓」『知られざる縄文ライフ』誠文堂新光社、2017年

中村幸作「クッキー状・パン状食品」『縄文時代の考古学5』同成社、2007年