にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

 縄文時代の道具と加工技術

 縄文土偶について述べたとき、儀礼祭儀などの宗教的活動に関わる象徴的器物を「第二の道具」と呼び、本来の直接生産に関わる道具を「第一の道具」と呼んだことは前に話しました。今回はこの「第一の道具」について話したいと思います。

 縄文時代の道具には、石器・土器・木器・骨角器・貝器・漆器・籠類・縄紐などがあります。鉄や銅などの金属を除き、自然に産出する素材を幅広く利用している点に特徴があります。縄文人はそれぞれの素材の特性を熟知し、有効利用する技術を有していました。

 縄文人のもつ優れた技術として、硬い岩石を加工して磨製石器や玉類を作る「研磨・穿孔・擦切技術」、木材を加工して器物や彫刻を作る「木工・彫刻技術」、樹皮などから採取した繊維で縄・編籠・敷物・網・編布などを作る「撚糸・編組技術」、漆の樹液を用いて器物や装身具を作る「漆工技術」、窯やロクロを用いず自在な造形の土器を作る「製陶技術」があります。

 秋田県上掵遺跡で出土した長さ約60㎝の4本の磨製石斧は、擦切り、研磨技術の高さを示す好例であります。中期に流行した鰹節形の硬玉製大珠も研磨・穿孔技術の粋を集めた逸品といえます。分厚いヒスイの中央に貫通孔を作り出すその穿孔技術は、研磨剤として石英粒子を用いたと推定され、当時の手工業では先端技術でありました。擦切りと研磨の技術は、硬くかつ弾力性に富む鹿角を用い、釣針や銛頭などの製作にも幅広く応用されました。また、穿孔用の石錐も縄文時代の代表的な工具の一種であります。土器の補修孔などにも穿孔技術の応用がみられます。

 撚糸・編組は地味な技術でありますが、これもまた重要な生活技術であり、縄紐・綱・編布・編籠・敷物などのさまざまな生活用具の製作に応用されています。植物繊維や樹皮・木材を有効利用する技術は縄文時代に確立し、日本列島の民俗文化として現代まで受け継がれてきたものであります。

 漆工の歴史は古く早期にさかのぼりますが、前期以降になると工芸技術として本格的な発展を遂げました。前期の漆製品には、土器表面にウルシと彩色で装飾した漆塗り土器や竪櫛などがあります。後期・晩期の漆器類には奢侈な工芸品が多いです。東京都下宅部遺跡では樹液採取の痕跡を留めるウルシの材とともに、赤漆塗りの飾り弓や竪櫛、木胎漆器などが出土しています。青森県是川中井遺跡の泥炭層からも、編籠を芯にして漆を重ね塗りした藍胎漆器や透かしのある竪櫛など見事な漆器類が多数出土しており、縄文時代の漆工技術の最高水準を示しています。縄文時代に確立した漆工技術は弥生時代以降にも受け継がれ、日本の伝統工芸としてその技術を高め発展してきました。

(参考文献)

谷口康浩「縄文人の技術力」『入門縄文時代の考古学』同成社、2019年