にわか考古学ファンの独り言(旧石器時代)

 人類はどこから来たか? 

 «猿人・原人・旧人・新人»呪文のように唱えられ、「サルからヒト」へとたどられた人類の進化ですが、実際はそう単純で、一直線の道のりではなかったようです。

 20世紀末、学会を二分する「現代人の起源論争」がありました。「他地域進化説」と「アフリカ単一起源説」です。

 「他地域進化説」は、化石人類の分析など形態人類学によるもので、私たち現代人(現生人類)=新人(学名ホモ・サピエンス)の遠い祖先種となるホモ・エレクトスが180万年前にアフリカを出て各地に拡散した後、アフリカ・ヨーロッパ・アジアなどの地域でそれぞれ現代人に進化した、というものです。

 一方、「アフリカ単一起源説」は、20万年前頃アフリカに誕生した我々現代人の祖先が、5~6万年前頃にユーラシアに進出、さらに世界へと拡散し、ヨーロッパでは先住のネアンデルタール人と交代し、またアジアでもホモ・エレクトスの子孫と入れ替わって、現在の私たちへと連なっているというものです。

 21世紀、軍配は「アフリカ単一起源説」に上がり、「他地域進化説」は退きました。その根拠のひとつとなったのがミトコンドリアDNA分析です。たとえば、かつて、ネアンデルタール人(旧人)は私たちの前身などと考えられましたが、2008年にネアンデルタール人ミトコンドリアDNAの全塩基配列が決定、その分岐年代が66(±14)万年前とされ、約20万年前とされる現代人の誕生とはかけ離れていることがわかったのです。

 アフリカを旅たち、地球上のあらゆる場所へと拡散した現代人の道程は、「偉大なる旅」(グレイト・ジャーニー)などと呼ばれています。あるものはヨーロッパに、あるものは東南アジアをへて5万年前頃にオーストラリアに、またあるものは2万年前までにシベリアを越え、ベーリング海峡を渡って1万5000年前までに北アメリカへ、さらに南アメリカへと分け入って、1万2000年前までにその南端のフエゴ島まで到達したことがわかっています。

 日本列島へは、東南アジアから琉球列島を経て九州へと入る南の道、朝鮮半島を経由して九州へと入る道、シベリア・サハリンを経て北海道・本州へと入る北の道などがあったことが想定されます。これらのどれかの道というよりは、それぞれの道が同時に、あるいは時期を違えるなどして機能していた可能性があります。旧石器の年代からは、およそ4万年前には、ホモ・サピエンスがやってきたのは確実なようです。

 いまや世界230ヵ国中の第10位の人口を占め、1億2700万人もの人びとが暮らす日本列島。アジアの片隅のこの小さな島に最初に足を踏み入れた人びとは、いったいどうやって命の灯をつないだのでしょう。その謎を解くカギを考古学研究がにぎっています。

(参考文献)

堤隆「偉大なる旅」『旧跡時代ガイドブック』新泉社2009年