にわか考古学ファンの独り言(旧石器時代)

 旧石器時代は氷河期 

 地上3000m。南極の”ドームふじ”では、日本の国立極地研究所のプロジェクトによる氷の深層の掘削がおこなわれ、氷の酸素同位体比から過去80万年におよぶ地球環境変動の解明が期待されています。グリーンランド日本海海底からなどからもこうしたデータが得られています。

 地球環境変動データは、地球上の過去70万年間において、寒冷な時代と温暖な時代が約10万年単位で交互に繰り返したことを示しています。この現象はミランコヴィッチ・サイクルとよばれ、地軸の傾きや地球の公転運動などと関係するとみられています。4万~1.5万年前にあたる後期旧石器時代は、やや寒冷な酸素同位体ステージ3(5.9万~2.8万年前)の後半と、寒冷な酸素同位体ステージ2(2.8万~1.15万年前)の氷河期に該当します。ちなみに現在はそのあとの温暖なステージ1です。

 この時代、蒸発した海水が氷河となったりしたため、寒冷なステージ2の2.8万年前以降には、最大で140m、最小でも80mという大規模な海面低下がおこりました。140mの海面低下が起きていた場合、日本は北で宗谷海峡津軽海峡が、南で対馬海峡が陸化し、大陸とつながったことが推定されます。また、100m前後の海面低下でも、それぞれの海峡幅はかなり狭まったらしく、大陸と日本列島、北海道・九州と本州とのヒトの往来を可能としたようです。

 氷河期の寒冷な気候を物語る証拠が、列島各地から見つかっています。

 「地底の森」とよばれる仙台市富沢遺跡からは、2万5000年前の100本を超す樹木が発見され、トウヒ属を主にモミ属、カラマツ属などの針葉樹で構成されていました。広葉樹はわずかにハンノキ属が混ざる程度です。現在こうした植生は仙台のはるか北、サハリン南部にみられるもので、現在より7~8度気温が低い寒冷な環境を物語っています。花粉分析の結果からは、コケモモやクロマメノキなどベリー類もあったようです。

 関東地方では、武蔵野台地にある野川中洲北遺の泥炭層(2.6~2.2万年前)の発掘から、トウヒ属がおよそ6割、モミ属2割がみられる亜寒帯針葉樹林が展開していたことが推定されています。

 西日本では、兵庫県板井寺ヶ谷遺跡で発見された植物化石や花粉などからは、寒冷な酸素同位体ステージ2の植生として、低地ではイネ科、ワレモコウ属、ヨモギ属などがあり、山地ではコナラ亜族を主とする落葉広葉樹は減少して、モミ属、トウヒ属、マツ属などの針葉樹が優先する植生が復元されています。常緑広葉樹林が広がる現在の西日本の森とはかけ離れた寒冷な景観だったようです。

(参考文献)

堤隆「氷期の森」『旧跡時代ガイドブック』新泉社2009年