にわか考古学ファンの独り言(縄文時代その②)

 縄文時代に学ぶこと

 縄文時代は、一万年近くもつづくというように、世界史でも例をみないほど安定した社会を築きました。しかも、縄文土器や漆工技術などに代表される原始社会の極致とよばれるほどの高い技術を示し、その内容も、先史文化では類をみないほど豊かな社会だったことがわかります。そして、ここが重要なことですが、縄文社会の豊かさを指し示す遺物や遺構というのは、特定の個人や集団とは結びつかない、生活の道具であり、共同体の記念物であるという特徴をもっていることです。

 縄文時代は獲得経済社会ですが、その獲得経済という用語は、人類側からみたものです。自然の側からみれば、一方的な略奪にほかなりません。それでも縄文時代が一万年近くもつづいたということは、自然の略奪(人類からみると自然の獲得)が、自然の再生産を妨げないように抑えられていたということです。ですから、縄文時代にも余剰が生まれますが、縄文人は余った時間や労働力を、拡大再生産に振り向けないような、自然と共生する道を選んだのです。 

 そして、縄文人は、余った時間や労働力を、直接生産に結びつかない労働、あるいは共同体での生活を円滑にするための活動へと振り向けていきました。縄文土器にみられる実用的な用途から遊離した装飾文様、精巧な櫛や耳飾りなどの装身具、土偶や石棒などの呪術的な遺物、あるいは漆器などの製品が時期を追って豊かになってくることが、そのことを雄弁に物語っています。また、古くは秋田県の大湯遺跡で発見された配石遺構、近年では東日本で発見例が増している巨大な柱根をもつ木柱遺構、あるいは北海道の周堤墓などは、共同体の記念物として構築されたものです。

 縄文時代の豊かさを指し示す遺構や遺物は、縄文人の生活感覚から生まれた産物です。縄文人は地球の資源が有限であることを経験的に自覚して、その再生産のなかに生活をゆだねる、今でいうスローライフを選択していたのです。そして、縄文人がスローなライフスタイルを選択したからこそ、弥生時代以降のように、個人や集団が富を独占するような、極端な不平等もおこらなかったのです。しかし、その縄文人ですら、時には、自然の再生産をこえるような人口の増加を引き起こし、自然から手痛いしっぺ返しを受けていたことはありました。

 20世紀の人類社会に高度成長をもたらした大量生産・大量消費型の生活様式は、世界的な天然資源の枯渇や地球温暖化に象徴される世界規模の環境破壊をもたらしました。そのため、21世紀の社会のあり方として、スローなライフスタイルを基調に、環境と共生した持続型の社会が求められてきています。21世紀が「環境の世紀」といわれる所以ですが、そうした今世紀だからこそ、自然と共生し、スローライフを選択した縄文人の生き方に学ぶべきことは多いのではないでしょうか。

 このブログは今回をもって終了させていただきます。ブログにアクセスしていただいた方には感謝申し上げます。また機会があれば書いてみたいと思います。

(参考文献)

勅使河原 彰「縄文時代に学ぶ」『縄文時代ガイドブック』新泉社2013年