にわか考古学ファンの独り言(縄文時代その②)

 編組製品について

 縄文時代編とだぶるかもしれませんが、編組製品について別の視点で書いてみたいと思います。

 編んだり組んだりする技術で製作される製品を編組製品といいます。かごなどの編組製品は食料や資材などの採集・運搬に適し、目の隙間を利用すればザルやフルイとしても機能するため、多様な用途に使える道具です。縄文時代の編組製品を大きく分類すると、かごと敷物、不明の三つに分かれます。編組製品の中には、編布や紐・縄などの繊維製品もあります。最近、大規模な低湿地遺跡の調査によって「かご」とわかる資料が数多く出土する遺跡が出てきました。土器や石器などの遺物に比べるとまだ少ないのですが、2012年現在で編組製品は、約90遺跡から出土しています。

 かごの実物資料例は、縄文時代早期からあります。なかでも佐賀県東名遺跡では早期後葉の約7000年前のかごが数百点出土し、すでに様々な編組技法が使用されていたことがわかっています。サイズも大きく、復元すると70センチ程度のかごがあります。東名遺跡のかごは、イチイガシなどのドングリ類を保管するために、貯蔵穴に入れられていました。東名遺跡のようにかごが多数出土する遺跡の増加によって、かごの素材を調査する事例も少しずつ増えてきました。

 編組製品はもっとも生活に密着した道具で、制作にあたっては身近な植物が利用されていたと考えられますが、素材となる植物についてはこれまでほとんど調べられていませんでした。その原因として、状態が悪いものが多く、素材分析用のサンプルが採集しにくいことや、同定の際に比較する現在の植物標本が揃っていなかったことがあげられます。先にあげた編組製品の素材を調べるための「樹脂法理切片法」の開発によって、編組製品にはさまざまな植物が使われていた様子がわかってきました。たとえば、東名遺跡では、樹木であるムクロジやイヌビワを割り裂いてへぎ材にし、大型のかごが作られています。中ぐらいや小さいかごには、ツル植物であるテイカカズラやツヅラフジを丸のまま割ったものをさらに削いでかごが作られています。つまり、かごに使われる素材は選択されていました。さらに、一見あまり差がないようにみえるムクロジとイヌビワのかごですが、それぞれの材料にあわせて、編み方も変えていることがわかりました。

 縄文時代の遺跡で編み物が出土した遺跡数は100にも満たない数しかありません。その中で編み物の素材が同定された事例はわずかですが、素材の選択に地域的な傾向があることがわかってきました。たとえば九州地方では、イヌビワとムクロジテイカカズラなどの、照葉樹林の中に普通にあったと思われる植物が多く利用されています。関東地方ではササが好んで使用され、北陸地方では、ヒノキやアスナロといった針葉樹、あるいはマタタビといったツル植物も使われています。東北地方や北海道では素材が同定された例はほとんどありませんが、落葉樹林に生育するノリウツギトチノキなどが使われており地域の植生に対応した植物が使われています。身近にあって比較的入手しやすい植物の中で、一番かごを作るのにいい植物を選び、選んだ植物はとことん使うというのが、縄文時代を通じてあまり変わらない素材選択であると考えられます。

 また、ワラビなどのシダ植物は、縄文時代の縄の素材に使われていたことがわかっています。青森県三内丸山遺跡富山県桜町遺跡、東名遺跡でも、縄にはシダ植物が使われていました。このように、かごや縄の使われた素材の研究からも、植物利用の新しい側面が見えてきているのです。

(参考文献)
工藤雄一郎「縄文人の巧みな編み物製作技術と素材の選択」

     『ここまでわかった!縄文人の植物利用』新泉社2014年