にわか考古学ファンの独り言(旧石器時代その②)

 

 旧石器人の食事 

 私たちとは異なる人類であるネアンデルタール人は、出土人骨に残るコラーゲンの同位体分析結果では、肉食中心の食生活で、食物連鎖の最上位にあったことが明らかにされています。彼らはマンモスや毛サイなどの大型哺乳類を選択的に狩猟し、それらがより重要な食料資源だったという指摘がなされています。

 これに対し、ヨーロッパのホモ・サピエンスであるクロマニヨン人は、肉食だけでなく淡水魚なども口に運ぶ多角的な食料採取をおこなっていたという推論があります。

 たとえば、シベリアのホモ・サピエンスが残したマリタ遺跡では、マンモス(9体)・毛サイ(11体)トナカイ(407体)・ヤギュウ(1体)・ウマ(2体)・北極ギツネ(50体)・オオカミ(1体)・グズリ(2体)・ライオン(1体)のほか、魚類の骨が出土しているといいます。トナカイに偏りながらも、、他の動物や魚類の利用もうかがえます。

 残念ながら、日本の後期旧石器時代ホモ・サピエンスたちが利用した食料についての手がかりはほとんどありません。遺跡からは、動植物遺体がきわめて稀にしか見つかりませんし、人骨の出土例がなくそのコラーゲン分析などができないこともあります。

 北海道柏台I遺跡の炉跡からは、シカ科の可能性がある焼けた骨片が、神奈川県の吉岡遺跡群ではイノシシの歯が見つかりました。シカやイノシシなどを食べていたという点では、縄文時代に近い状況があります。宮城県の宮沢遺跡では、二万5000年前のシカのフンがありました。宮沢の旧石器人たちもシカをとっていたのでしょう。

 旧石器時代というと一般にナウマンゾウやオオツノジカなど大型獣が思い起こされますが、これらがどの程度仕留められていたかは、具体的証拠に欠けています。最近では、大型獣の狩猟に疑問を呈す意見もあります。

 植物質食料の手がかりもかなり限られています。新潟県荒屋遺跡の住居跡や貯蔵穴から、オニグルミ・ミズキなどの種子が出土し、食用と考えられます。静岡県広野北遺跡の土坑からもオニグルミが出ています。このほか、チョウセンゴヨウやハシバミなどの実、ベリー類ではコケモモやクロマメノキ、ヒメウスノキなども食べたことが考えられます。ハシバミは熱を加えずともそのまま食べられ、栄養価も高く美味しいナッツです。

 南九州などの遺跡では、ナッツ類をすり潰すための磨石が数多く出土します。木の実があまりとれない北方に比べ、より暖かい九州などでは、ナッツ類の利用が進んだことがうかがえます。最近では磨石に残るデンプン粒をさがし、どんな植物をすり潰していたのか究明する試みも始まりました。旧石器時代でも、地域の環境に応じた食生態の違いがあったことでしょう。

(参考文献)

堤隆「旧石器人は何を食べたか?」『旧石器時代ガイドブック』新泉社2009年