にわか考古学ファンの独り言(旧石器時代その②)

 「前・中期旧石器遺跡捏造事件」について①

 目を覆うようなスクープが2000年11月5日、毎日新聞の朝刊トップを埋めた。「前・中期旧石器遺跡捏造事件」の震撼が、日本中へと広がった瞬間だった。

 「神の手」の異名をもつ男は、縄文遺跡などから採取してきた新しい石器をポケットにしのばせ、後期旧石器をさかのぼる四万年前以前から、発覚直前にいたっては70万年前といった古い火山灰層の中にひそかに埋め込んだ。

 男はその後、大勢の目の前で自ら埋めた石器を掘り出し、たった今発見したかのようによそおった。まさに自作自演の捏造行為である。「神の手」とは「悪魔の手」に他ならなかった。

 その「発見」に疑いを抱き続けてきた研究者の助言をもとに、宮城県上高森で張り込みを続けた記者が、捏造の瞬間を押さえたのだった。

 男は、自ら遺跡発掘に積極的関与をするようになった70年代、すなわち四半世紀も前から捏造を繰り返していた。関与したすべての場所が汚染されたらしく、捏造は200ヵ所近くにおよんだ。宮城県の座散乱木、馬場壇、上高森、福島県一斗内松葉山、埼玉県小鹿坂、北海道総進不動坂などが捏造現場となった。捏造が暴かれる直前までこれらの「遺跡」は、列島の人類史を10万年単位でさかのぼらせる発見として、新聞のトップを飾ることもしばしばだった。

 旧石器研究は、捏造事件によって失墜した。日本考古学最大の汚点である「前・中期旧石器遺跡捏造事件」について、ふれてみたいと思う。