にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

  縄文の起源

 「縄文時代はいつからはじまるか」

 これは、じつに悩ましい問題です。旧石器時代縄文時代の画期を何に求めるかによって、そのはじまりは違ってくるからです。

 もっとも一般的な説は、日本列島における「土器」の出現をもって、縄文時代とするものです。これは土器が縄文時代ににおいて独自の発展をとげただけでなく、旧石器時代にはない煮炊き用の道具を列島の石器時代人が手に入れることによって、生活の仕方を根本から変えるような変革をもたらしたとの評価からです。現在のところ青森県の大平山元 I 遺跡の土器が最古ですので、その土器に付着した炭化物の放射性炭素年代(較正年代)から約1万6000年前が縄文時代のはじまりということになります。

 二つ目の説は、土器が列島に普及した時期を持って縄文時代とするものです。これは出現の土器は、出土する土器が限られているだけでなく、その数量もきわめて少ないことから、土器が本格的に普及する隆起線文系土器の時期を縄文時代のはじまりとするもので、約1万4500年前ということになります。

 三つ目の説は、植物質食料の加工技術や貝塚の出現などに象徴されるように、植物採取・狩猟・漁労活動における縄文的な利用の手段と技術が確立し、定住生活が本格化する関東地方の土井編年でいう撚糸文系土器の時期を縄文時代のはじまりとするものです。この場合は、約1万1500年前ということになります。

 これらの説の「いずれがただしいか 」と問われれば、すべてが正解と答えざるをえません。それは個々の研究者が縄文時代の歴史をどうみるか、つまり歴史観によって正解が決まってくるからです。私は、三つ目の撚糸文系土器の時期から縄文時代のはじまりとする説をとっていますが、そのもっとも重視する理由の一つは世界史との比較です。

 約1万1500年前は、最後の氷期である更新世が終わり、今日の温暖な気候となる完新世の初頭にあたります。西アジアの肥沃な三日月地帯を含むレヴァイン人地域ではアワやキビなどの穀物が栽培化され、初期農耕が開始されます。その一方で、森林資源や海洋資源が豊富な地域では、それぞれの地域の自然資源を有効に管理し、特色ある地域文化を発展させます。

 こうした完新世の気候の温暖化のもとで、新しく形成された環境に適応した人類が、高度に集約化した獲得経済や農耕・牧畜による生産経済を開始することによって、各地で特色ある地域文化を発展させた時代が新石器時代にあたります。

 この新石器時代に日本列島で開花した地域文化こそが、縄文時代の文化であるとすれば、約1万1500年前の完新世初頭にあたる撚糸文系土器の時期こそが、世界史との比較からみて、縄文時代のはじまりとしてもっともふさわしいといえるでしょう。

(参考文献)勅使河原 彰「縄文時代はいつからか」『縄文時代のガイドブック』

                         新泉社、2017年