にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

 植物食以外の植物利用「編組製品)

 縄文時代の人と植物との関係を考えるとき、食料が重要なのは言うまでもないことですが、それ以外に道具の素材や竪穴住居などの建築部材、調理や暖を取るための燃料材、植物繊維、塗料、そして薬用など、縄文人がさまざまな植物と密接にかかわっていたことは間違いありません。

 しかし一方で、縄文時代の植物利用についてはまだ未解明な点も多く、様々な課題が残されています。その一つに縄文時代の編組製品の利用とその技術の解明があります。植物食以外の植物利用については、編組製品にしぼって述べたいと思います。

 編組製品は「編む」「組む」という技術によって製作される製品で、縄文時代にはかごや敷物、縄や紐、綿布などがあります。編組製品には、木本植物(樹木)の木材(木部)や樹皮草本植物の茎、木本性または草本性のつる植物の木部や樹皮、ササ類の稈、シダ植物の茎(葉柄)など、植物のさまざまな部分が使われています。材料は、素材植物をそのまま使うか細かく割り裂いて「へき材」にしたものを使用します。編組製品は縄文時代以降現在に至るまで、日常の生活用具として長く使われてきました。

 編組製品は以下のような特徴をもっています。①技法と素材植物が単一のものから複合的なものまで多岐にわたります。②素材植物の特性を生かして、大きさと形状を自由に設定しやすいです。(たとえば、目の隙間を調整してザルあるいはフルイとして使うなど、多様な用途に使えます)。③素材植物を身近な生活空間で入手して製作するため、同一の地域では時代を経ても製作方法や製品の形態の変化が少ないです。④通気性、通水性があって軽く扱いやすいため、材料や食料などの採取や運搬に適しています。

 「編む」「組む」には研究者によって異なる捉え方がありますが、素材と製作技法の視点から分けてみます。

 「編む」技法では、二方向の素材がそれぞれ動いて組み合わさっていきます。二方向の素材が組み合わさることによって、中央部から周囲に大きくなっていきます。縄文時代の編組製品ではかごの底部や縄、紐に用いられます。それに対して、「編む」技法では、タテ材は固定され、横方向の編み材のみが一定方向に動きます。粘土紐を使いを輪積みで土器を作っていくような動きです。「組む」技法でも素材を斜め方向に交差して体部を組み上げることはできますが、組む場合には二方向の素材が均等な力で組み合わさって、それぞれ別な方向に動かなければなりません。つまり、「組む」技法では、かごを立ち上げた後も、同じ幅で同じ厚さの素材を使わないと組み合わさっていかないのです。「編む」技法では、タテ材は動かずヨコ材だけが動いていくため、タテ材とヨコ材の素材や素材の幅が異なっていても大丈夫で、素材選択の自由度は高くなります。

 縄文時代のかごの側面(体部)は、ほとんど「編む」技法で作られています。そこに縄文時代のかごの大きな特徴があります。「編む」技法で作られているからこそ、途中で素材植物を変えたり、編み方を変えることが可能となります。 

 編組技法の表現方法の研究は古く、1899年に坪井正五郎が「越え、潜り、送り」という表現で、実物資料や間接資料の編組製品の技法を記述しました。しかし、この方法では民具の技法である「四つ目」や「ござ目」など、異なる編組パターンの技法も一括してしまうことになるため、縄文時代の編組製品の技法は、民具での編組パターンを用いています。

 これらのほとんどの技法が縄文時代早期、8000年前頃の東名遺跡で確認されています。民俗考古学的にみても、現在につうじる複雑な編組技法が縄文時代早期には確立していたことは、縄文人の編組技法の水準の高さを物語っています。