にわか考古学ファンの独り言(縄文時代)

 土器の型式について

 型式を調べることで縄文時代の年代が推定されるのですが、縄文土器の型式は非常に分かりにくいのです。それでも、考古学にはなくてはならない研究手段です。複雑な土器の型式を理論的に理解することは難しいのです。型式の基本に、「一つの種はその古い種から変化したものであり、変化して生じた新しい種はさらに新しい種を産む」という進化論を応用した考え方があります。

 土器の型式、特に型式同士の変化とその関係は、自分の親兄弟、叔父や叔母、従妹、さらに祖父母、その親族といった関係に似ています。例えば結婚式の場合を例にとると、新郎とその兄弟の特徴をとらえたものが一つの型式となり、その両親や祖父母は新旧の連続性をもつ型式ということになります。考古学では、共通の特徴をもつ土器群に型式を与える場合、それらの特徴のなかから意味あるものを抽出して型式の特徴とします。

 肝心なのは、設定した型式に、それぞれの所属や順番、関係を正しく与えることです。例えば、通常の世代は、祖父母→父母→新郎→兄弟という順番です。考古学の型式は、その順番を決めることを第一関門とします。

 発掘調査によって遺跡から発見された土器には、何遺跡のどこから何とともに、どのように出土したかという「出土(出生)証明」が与えられます。人間であれば、それはそのまま戸籍に記載されますが、遥かな歴史時間を経てきた遺跡とそこから出土した土器は、出土(出生)に至るまでの経歴(親兄弟や親族の存在)が明らかではありません。出土した土器を登録する戸籍は存在しないのです。

 そこで考古学者は、土器それぞれに戸籍を与えようと、進化論や層位学や型式学や理化学的な年代測定を駆使します。新郎兄弟という型式を設定しても、新旧を誤り、祖父母→新郎兄弟→父母であっては意味をなしません。

 父母の姉弟や従姉、祖父母の兄弟や従兄、あるいはそれぞれの叔父や叔母の関係を正しく位置づけることが肝心なのです。父母と祖父母の兄妹姉弟は同じ世代にしたなどという勘違いがあってはなりません。さらに、血筋の伝達には、隔世遺伝があります。それを見出すことも重要です。型式の持つ「意味ある特徴を抽出する」ことの重要性はそこにあります。意味ある特徴の抽出は、視点が重要で、視点によって変化もします。

 型式に「人間との共通性」をみるのは、縄文土器の背景には人間がいて、その「背景に存在する人間の強い意識」が、土器の造形に現れているのだと思われます。それこそが縄文土器の重要な特徴なのです。

 縄文土器は、個人が自由に創作したものではありません。なぜなら、いくつもの個体から共通した特徴が認められるからです。縄文土器に型式が生まれるの理由は、風土や集団社会や交流など、土器の作る手を取り巻く環境と、道具としての役割がその背景にあると考えられます。

 型式を研究することによって、縄文時代が1万年以上も続いた長い時代であったことが理解できると思います。

(参考文献)

井口直司「土器の型式」『縄文土器土偶角川ソフィア文庫 平成30年