にわか考古学ファンの独り言(旧石器時代その②)

 石器をつくる技

 ねらいを定め、川原石のハンマーを黒曜石に打ちおろします。「パシッ」と音がして、鋭いカケラが剥がれ落ちます。石器の材料となる剥片です。このカケラをもとに、ナイフ形石器や尖頭器、搔器などさまざまな旧石器の道具が作られます。

 石器作りには、次の三つの方法が知られています。 

 直接打法:敲石の直接的な打撃で素材を剥ぐ剥離法。川原石などの硬質ハンマーを用いる場合、鹿角や木など弾力性をもつ軟質ハンマーを用いる場合があります。

 関節打法:石器にパンチ(タガネ)をあてがい、パンチの上をハンマーで打って間接的に打撃する剥離法。打撃点がぶれずに固定され、剥離の角度が調整しやすい点で、規格性のある石刃を連続的に剥がすのに有効であると製作実験では証明されています。ただ、旧石器遺跡からはパンチの出土例が少なく、本来この技術が存在したかどうかは未知数です。

 押圧剥離:押圧剥離具(鹿角の先端など)を石器に押し付けて力を加え、剥離をおこなう方法。薄く奥行きのある剥片が剥がれます。小型で細長い採石刃を大量に剥離するのには、この方法が最も有効であり、黒曜石など貴重な石材資源を無駄なく有効に活用することができたと考えられます。

 この三つの方法以外に、次のような製作法があります。

 研磨:後期旧石器時代初頭の石斧の刃は、研磨によって磨き込まれています。研磨のための砥石も出土しています。つまり研磨技術そのものはこの時代のはじめから存在しますが、石斧以外で研磨された旧石器はありません。石器以外では、玉類などの装飾品や、花泉遺跡の骨角器の先にも研磨の痕跡がみられます。

 敲打:ペッキングといい、コツコツと叩いて石器の整形をおこなう方法。大分県岩戸遺跡の「コケシ」の愛称がある後期旧石器時代の岩偶は、この方法によって作られています。

 加熱処理:石材に熱をくわえ剝離をしやすくする方法。たとえば頁岩や玉髄などの石は加熱によって、その後の細部加工がスムーズにできることが実験から証明されています。実際、岩手県の縄文前期から晩期の玉髄製石器で加熱処理による剥離がなされたことが、その表面変化から観察されています。ただ、旧石器での処理例はこれまで確認されていません。

 石器に残る物理的痕跡:水面に石を投げこむと、波紋が同心円状にひろがるように、石器も打ち欠いた打撃点を中心にリングという環が広がり、放射状のフィッシャーが走ります。こうした物理的痕跡により石器の打撃点を復元したり、その連続性を観察して、打ち欠きの順序を調べます。また、打撃点周辺の特徴から、打ち欠きに使われた道具は、木などの軟質ハンマーであったか、石などの硬質ハンマーであったかがわかる場合があります。

(参考文献)

堤隆「石をつくる技」『古墳時代ガイドブック』新泉社2009年